トラックドライバー不足が深刻さを増す

12/23(金) 12:45 配信

積み降ろし作業で2時間超の拘束も

11月下旬の東京の湾岸エリア。羽田空港や東京港に程近い物流倉庫が立ち並ぶこのエリアには、夕方以降、たくさんのトラックが集まってくる。東京から全国各地に運ぶ荷物を積み込むためだ。歳暮やクリスマスなど年末商戦を目前に控え、この時期は荷物の出荷量が1年のピークを迎える。商取引に支障を来さないよう時間通りに目的地まで荷物を届けてくれるのはトラックドライバーたちだ。

倉庫周辺の路上では、ドライバーたちがトラックを停めていく。それぞれ定位置があるのか、慣れた操作で、車線に左寄せしたり、中央分離帯に右寄せしたり。

トラックは、荷主(輸送の依頼主)の物流倉庫に到着したからといって、すぐに積み込み作業を始められるわけではない。出入りするトラックによる混雑を避ける目的で、荷主はトラックごとに倉庫のバース(荷物の積み降ろしスペース)に接車する時間帯を分刻みで設定している。多くのトラックは決められた時間になるまで倉庫周辺の路上などで待機しなければならないのだ。

北海道から九州まで、全国各地のナンバープレートをつけたトラックが物流倉庫近くの路上で待機する(撮影: 田川基成)

今回、同乗させてもらうことになった長距離輸送のトラックを運転するのは、中堅運送会社に勤務する浅井雄二さん(仮名)。彼はいつもこの待機時間を利用して夕食をとっている。この日のメニューは、小さめのコンビニ弁当にインスタント味噌汁。これから荷物の積み込み作業や長時間運転といった肉体労働が始まるわりには少食だ。

「お腹がいっぱいになると運転中に眠くなってしまうからね」と、浅井さんは、はにかんだように言う。食事を終えた後、運転席に置いたタブレット端末でテレビのバラエティー番組を観ながら、しばらくくつろいでいると、指定の積み込み時間がやってきた。

東京のこの日夕方の気温は10℃前後。湾岸エリアは強い海風のせいか、気温よりも肌寒く感じる。それでも積み込み作業を始めると、すぐに浅井さんの額には汗がにじみ始めてきた。荷崩れが起きないように荷物をバランスよくカゴ車に積み、それをトラックの荷台奥まで手で押していく。パレット積みになっている荷物は手動のフォークリフトで持ち上げて荷台まで運ぶ。この作業の繰り返しが30分以上続いた。

ロールボックスパレット、通称「カゴ車」の荷物を荷台に詰めていく。荷物を載せたカゴ車は1台当たり600キロ近くなることもある(撮影: 田川基成)

荷物を積んだパレットを載せて引いているのがハンドリフト(手動のフォークリフト)。こうした荷役機器を使える作業だと肉体的負荷は小さくて済む(撮影: 田川基成)

作業用の軍手を外し、額の汗をぬぐいながら運転席に戻ってきた浅井さんに、運転前にもかかわらずかなりの重労働ですね、と声を掛けると、「いやいや、この程度の作業は楽なほうだよ。段ボール箱を1つずつ荷台に積みつけていく“手積み”だと、1台で2~3時間掛かることもあるからね。飲料水など重い荷物を扱うと腰に負担が掛かるから特にきついよ」との答えが返ってきた。

この日の目的地である名古屋、大阪に向けて出発準備が整ったのは午後9時半。所属するトラック運送会社の千葉県内の営業所を出たのが6時ごろだったので、出発するまですでに3時間半が経過していた。

自宅に帰るのは週2日

浅井さんは55歳。20歳の時に出身地の九州から上京し、トラックドライバーの仕事を始めた。当初は小型トラックで野菜などを運んでいたが、10年ほど前から大型トラックのハンドルを握る。8年前に入社した今の勤務先では、主に東京~名古屋~大阪間の長距離運行を担当している。

浅井さんは同区間を週に3往復する。月曜日夜に東京を出発し、名古屋に立ち寄った後、火曜日早朝に大阪に到着。十分な睡眠をとって火曜日夜には再びハンドルを握り大阪を出発し、名古屋を経由して水曜日早朝に東京に帰還する。水曜日夜には再び東京を出発して――という勤務シフトだ。3往復目は金曜夜の出発・日曜早朝の帰京となる。走行距離は月に1万5000キロ。年間18万キロに達する。

通常、1往復が終わると、千葉県内の営業所に戻り、雑務をこなした後、車で約1時間かけて同じ県内の自宅に帰る。しかし、運転席後方にある簡易ベッドで睡眠をとって、そのまま次の乗務に突入することも少なくない。そのため、自宅に戻るのは週2回程度だ。

運転後の就寝前に、食事とともに缶ビール1本を空けることもある。しかし、アルコールが残った状態でハンドルを握るわけにはいかない。乗務が続く月曜日から土曜日に深酒をすることはない。休日は3往復が終わる日曜日の朝から、月曜日の夕方まで。日曜日の昼から、自宅近くの行きつけの居酒屋で好きなだけ焼酎を飲むのが休日の楽しみだという。

出発前、運転席でつかの間の休憩を取る。夜間の運転中に眠くならないようにするため、食事を控えめにするドライバーも少なくない(撮影: 田川基成)

午前1時。浅井さんの大型トラックは、中央自動車道(中央道)の阿智(あち)パーキングエリア付近に差し掛かっていた。ここを越えるとすぐに中央道の難所の1つとされる「魔のカーブ」が待ち構えている。下り急勾配がしばらく続き、半径300メートルの急カーブに突入する。10年前には、大型トラックなど十数台が玉突き衝突し、複数の死者を出す重大事故が発生した危険ポイントとして、業界では悪名高い場所である。

ハンドルを握る浅井さんの表情が引き締まる。小雨の影響なのか、薄い霧が立ちこめていて、見通しはよくない。フットブレーキとエンジンブレーキを使いこなし、速度超過を抑えようとするものの、下り坂のため、前を走るトラックとの車間距離は縮まっていくばかり。20年間無事故という浅井さんの運転技術に信頼を寄せていたとはいえ、この難所を無事に通過するまでの数分間、身の危険をまったく感じなかったと言えば嘘になる。

午後9時半、東京を出発。休憩を挟みながら、翌早朝の大阪到着までハンドルを握る(撮影: 田川基成)

中央道を走ることは予定外だった。通常、最初の積み降ろし地である名古屋には東名高速道路で向かう。しかし、この日、東名では約10キロメートルの渋滞が発生。これを回避するため、中央道ルートで名古屋を目指すことになった。

中央道は坂やカーブが多く、運転中に気を緩めることができない、ドライバー泣かせの道路といわれている。名古屋までの所要時間も東名ルートと比べ1時間程長くなる。そのため、「気力も体力も消耗する中央道は、可能なかぎり、走行を避けたいというのが本音。それでも、この道を選択したのは、荷主さんと約束している到着時間を厳守するためだ」と浅井さんは説明する。

名古屋に到着したのは、東京を出発して5時間後の午前2時半。ほぼ目標通りの到着時間だった。

ドライバーが長時間を過ごす運転席。その後方の簡易ベッドで仮眠することも(撮影: 田川基成)

30年で「厳しく、儲からない仕事」に

トラックドライバーの仕事は、肉体的・精神的な負荷が大きい上、拘束時間が長い。厚生労働省の2015年の調査によれば、1カ月の所定内実労働時間数と超過実労働時間数の合計は、大型トラックドライバーで218時間、中型・小型トラックドライバーで215時間に達し、産業全体平均の177時間を大きく上回っている。

実際、この日、名古屋に到着した時点で、浅井さんの拘束時間はすでに8時間半を経過。さらに大阪までの運転時間を加えると、ちょうど12時間となる計算だ(休憩時間を含む)。

それでも、労働の対価は低く抑えられている。バブル全盛期の80年代後半には、年収が1000万円を超えるトラックドライバーも少なくなかったが、1990年の規制緩和(新規参入要件の緩和、運賃の実質自由化など)で事業者間の競争が激化。以降、運賃値下げや景気低迷などの影響で、トラックドライバーの待遇は悪化の一途を辿っている。

貨物自動車運送事業者数の推移。90年の規制緩和以降、事業者は2万社超増加したものの、近年は競争の激化により、退出(廃業、合併、譲渡)事業者が増加。2008年度以降の総事業者数は横ばいで推移している。資料:国土交通省

トラックドライバーが対象に含まれる「道路貨物運送業」の平均賃金は月額29万円強で、全産業平均を2万円ほど下回る(2014年。厚労省の調査より)。つまり、トラックドライバーは、このおよそ30年の間に、きつくても稼げる仕事から、きついにもかかわらず稼げない職業に転落してしまった。浅井さんの年収は500万円弱。ここ数年、その額はほぼ横ばいだという。

トラックドライバーの数はピーク時に約90万人に達していた。しかし、総務省によれば、その数は2015年時点で80万人にまで落ち込んでいる。職業としての魅力が薄れてしまったためだ。

それと並行して、高齢化の波も押し寄せている。現在、トラックドライバーの約7割は40代以上で、全体の15%を60代以上が占める。浅井さんも「社内や外部の仲間もドライバーたちはほとんどが40代以上」と指摘する。

その実態は同乗中にも垣間見えた。大阪市内に入る手前で事故渋滞に巻き込まれて減速走行している時、横並びとなった他のトラックの運転席を覗いてみると、確かにハンドルを握っているのは年配者ばかりだった。

全日本トラック協会は、若年労働者不足に危機感を強めている。道路貨物運送業 年齢階級別就業者構成比(2015年)。総務省「労働力調査年報」より作成。端数処理のため合計は100%にならない

輸送効率化でドライバー不足に対処

事業者の約7割が人手不足感を訴えるなど、トラック運送業界ではすでに、ドライバー不足が深刻さを増しつつある。実際、トラックドライバーを含む「自動車運転の職業」の有効求人倍率は2015年度に2.25倍となり、全業種平均の1.8倍程度に高止まりするなど、人材が集まらない状況が続く。中小はもちろん、経営基盤が安定している業界大手であっても例外ではない。

「宅急便」を展開するヤマト運輸は、新規格のセミトレーラーとフルトレーラーを開発した。日本初となる新規格の車両は従来タイプよりも、セミトレーラーで2本、フルトレーラーで6本多く、「宅急便」を積んだカゴ車を荷台に搭載できる。

開発の目的は、「1回の運行でより多くの荷物を運べるようにすることで、幹線輸送の効率化を図ること。また、ドライバー不足の解消といった効果も期待している」(ヤマト運輸)という。

路上から物流倉庫に移動、さらにそこで荷積みを待つトラック(撮影: 田川基成)

さらに同社では、2013年から推進している「バリュー・ネットワーキング構想」に基づき、現在稼働中の2拠点である関東の「厚木ゲートウェイ」、名古屋エリアの「中部ゲートウェイ」に加え、2017年には「関西ゲートウェイ」を大阪府茨木市に新設する。東京~大阪間を直通運転していた長距離幹線トラックを、東京~名古屋、名古屋~大阪といった具合に、各ゲートウェイ間を往復する「リレー方式」による運行に切り替えることで、1運行当たりの輸送距離を短縮。長距離ドライバーの日帰り勤務を実現しようとしている。

震災後、家族が嫌がる職業に

グループ全体で3000台以上のトラックを保有するSBSホールディングスも人材の確保に苦労している。同グループの中核会社であるSBSロジコムではここ数年、契約社員ドライバーの正社員への切り替え、ドライバーに対する公平な人事考課を徹底するための管理者層に対する教育研修の強化など、ドライバーの待遇改善に取り組んできたが、その成果はまだまだ不十分だという。

ドライバーが集まらない背景の1つとして、同社では“嫁ブロック”を挙げる。採用を担当する齋藤かおり係長はこう指摘する。

「過去に経験もあるのでドライバー職に就きたいが、どうしても家族の理解が得られない、と入社を断念する応募者もいる。特に東日本大震災以降、何か天災が起こった際に、父親が不在だったり、すぐに自宅に戻ってくることができないような環境だったりすると不安なため、特に長距離ドライバーの仕事には就いてほしくない、と考える家族が増えているようだ」

SBSロジコム(株)営業本部人事採用担当の齋藤かおり係長(撮影: 田川基成)

ドライバーの仕事を続けていることに対し家族の同意を得られているのか。渋滞を抜けたところで、浅井さんにも尋ねてみた。

「うちは娘がすでに成人しているから、何日も家を空けていても問題はない。ただ、まだ小さい子どもさんがいるドライバーは、家族に寂しい思いをさせているだろうね。お父さんが学校の行事に参加できないとかね」

午前6時、トラックは大阪に到着。荷降ろしを終え、この日の浅井さんの仕事は終了した。

免許制度改正で若年層確保へ

行政や業界団体もドライバー不足対策に向けて動き出している。

トラックドライバーという職業は、まず小型トラックで運転のノウハウや経験を積んで、中型トラック、大型トラックに乗務をシフトしていく、というのが通常のキャリアパスだ。そのため、特に高齢化の進む大型トラックの長距離ドライバーを安定的に確保していくには、いかにキャリアとしての出発点である小型トラックのハンドルを、若年層に握らせるかがカギとなる。

そこで、業界をとりまとめる全日本トラック協会では、国土交通省や警察庁など関係省庁と連携し、運転免許制度の見直しに着手した。その結果、3.5トン以上7.5トン未満のトラックを運転できる「準中型免許」が新たに創設されることになった。新制度は2017年3月にスタートする。

中型・大型免許取得には年齢の他、免許期間の要件がある。中型は普通免許等保有通算2年以上、大型は同3年以上。現行制度では、20歳未満で取得できるのは普通免許のみ。法改正で、20歳未満の若年者が運送業のドライバーとしてできる業務範囲は大きく広がる

この「準中型免許」は、18歳以上であれば「普通免許」がなくても取得が可能だ。さらに、免許取得時の技能教習は「普通免許」とほとんど変わらないなど、経済的負担も少ない。「準中型免許」をとれば、高校卒業後すぐに、宅配便を運んだり、コンビニのルート配送を行ったりするトラックなどに乗務できるようになるという。

トラック運送業界では、今回の法改正によって、「仕事に就くためのハードルが下がることで、若年層が再びトラックドライバーという仕事に興味を示してくれるようになるはずだ」(全日本トラック協会)と期待を寄せている。

物流倉庫内のトラック。ドライバーは荷積み作業中(撮影: 田川基成)

いま日本社会では、長時間労働が常態化する仕事のあり方に、厳しい目が向けられている。労働力への依存度が高いトラック運送業はそんな業種業態の一つだ。今後、運転免許制度の改正などを通じて、仮に若年層をスタートラインに立たせることに成功したとしても、肝心の労働環境の改善が進まなければ、定着率の向上は期待できない。より待遇のいい仕事を求めて人材が他業種に流れていくことは必至だ。

そうなれば、「2020年には国内でトラックドライバーが約10万人不足する」(鉄道貨物協会)という予測も現実味を帯びてくる。

浅井さんのような中高年の現役ドライバーたちがトラックから降りてしまったら、その後はいったい誰が荷物を運んでくれるのか。トラックドライバーが「きつくて稼げない仕事」であり続けるかぎり、その担い手として名乗りを上げる者は出てこない可能性もある。

夜が更けるにつれ、幹線道路を走る車はもっぱら大型トラックとなっていく(撮影: 田川基成)


刈屋大輔(かりや・だいすけ)
1973年生まれ。青山学院大学大学院経営学研究科前期博士課程修了(経営学修士)。物流専門紙記者、物流月刊誌副編集長などを経て、独立。物流・ロジスティクス分野を中心に、幅広い分野で取材・執筆活動を行う。

[写真]
撮影:田川基成
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝
[図版]
ラチカ

12/23(金) 12:45 配信  yahooニュース 引用

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