アマゾンの実店舗戦略

アマゾンの生鮮食品店、実店舗戦略に拍車
頻繁な購入傾向に食指

灰色のビルが立ち並ぶ米シアトル北西部の工業地区。名前のない建物にすでに明かりがともっている。ここは米アマゾン・ドット・コムの新たな食料品店になる場所だ。地元シアトルで間もなく開業する店舗2軒のうちの1つで、アマゾンが食料・雑貨を取り扱う実店舗に進出する第一歩を刻むことになる。

食品のネット販売サービス「アマゾン・フレッシュ」向けのトラック(米カリフォルニア州トレイシー)=ロイター
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食品のネット販売サービス「アマゾン・フレッシュ」向けのトラック(米カリフォルニア州トレイシー)=ロイター

この店舗は典型的なコンビニとはほど遠いものになる。ドライブイン方式を軸として機能する。大きな斜めのひさしは、1950年代のドライブイン食堂の雰囲気を醸し出す。

ここに来る顧客は店内の棚を見て回ることはない。事前にオンライン上で商品を注文しておき、店舗では、食料品を持ってきてもらうのを車の中で待つ仕組みだ。

実店舗を手掛けるアマゾンの動きは、オンラインオンリー戦略――この成功で世界一価値の高い企業の一角を占めるようになった――からの劇的な転換だ。新店舗で極めて重要な新しい目標が浮き上がる。それは食料品市場を征服するという、今まで果たせずにきた目標である。

■食品・飲料の売上高、5年後に約2.6倍

同社はこれまで、食料品配達サービス「アマゾン・フレッシュ」を拡大してきた。今年はサービス提供地域を2倍以上に増やし、ロンドンを含む17市場に進出を果たしているが、コーウェン・アンド・カンパニーの試算によれば、アマゾンは8000億ドル規模の米国食料品市場の1%しか占めていない。

コーウェンのアナリスト、ジョン・ブラックレッジ氏は「食料品はアマゾンにとって売り上げを伸ばす最大の可能性を秘めている」と指摘する。

同氏の試算では、アマゾンは食品・飲料の売上高を今年の90億ドルから5年後の230億ドルに伸ばせる可能性があり、米国の大手食品スーパー上位10社入りを果たせるという。

米国の食品・飲料市場の2割を牛耳るウォルマート・ストアーズや、それより規模の小さいクローガー、アルバートソンズなどのアマゾンのライバル企業にとっては、これは厳しい競争を意味するかもしれない。

ウォルマートは食料品販売を伸ばすのに苦労しており、コーウェンの消費者調査によれば、同社の食料品販売は10月に前年比で2%減少した。アマゾンの食料品販売は同じ期間に12%増加している。

実店舗を手掛ける実験は、会社全体の売上高が急増し、新たな戦略を試す余裕があるときに行われている。アマゾンの売上高は過去12カ月間で1170億ドル(クラウド事業の「アマゾン・ウェブ・サービス」を除く)に達し、前年同期比で25%増加した。米国のオンライン小売市場の伸びを大幅に上回る成長ペースだ。

それにもかかわらず、米国の小売売上高の80%以上は依然オフライン(実店舗)で、アマゾンの戦略に詳しい人々は、同社はそうした売上高の一部を手に入れる新しい方法を模索していると言う。

「市場より速いペースで成長できるのは、大数の法則に追いつかれるまでのことだ」。アマゾンのプロダクトマネジャーを務め、現在はマドロナ・ベンチャー・グループ幹部のスコット・ジェイコブソン氏はこう話す。「いくつか異なる市場を狙わなければならない。これ(食料品)は異なる市場だ」

Financial Times引用

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